「日本料理 奈良岡屋」
秋田県の北に位置する小坂町は、かつて鉱山で栄えた土地である。町の中心部には芝居小屋の康楽館や洋風建築の鉱山事務所が並ぶ道があり、明治百年通りとして観光地化されている。そこから歩いて数分、かつての繁栄を偲ぶよすがはないものの、数軒の飲食店が集まっている場所がある。
そのうちの一軒が小坂のかつらーめん発祥の店とされる奈良岡屋である。
まだ小坂鉱山が操業していた1970(昭和45)年頃、小坂の七夕祭りの山車作りに関わる人たちが、奈良岡屋でラーメンにとんかつをのせてほしいと要望し、最初は裏メニューとして生まれたものだという。七夕の関係者は鉱山で働く人が多かったことから、手軽に栄養を摂れるメニューの需要があったのだろう。
奈良岡屋のかつラーメンは、ラーメンに玉子とじかつ丼のアタマをトッピングしたものである。ラーメンは煮干し、豚骨、鶏ガラ、生ハムなどで取った醤油味のあっさりしたスープに細麺を合わせている。かつは地元の銘柄豚である桃豚を薄めにカットし、揚げてある。衣にスープが徐々に染み込む塩梅がとても良い。現在、小坂町かつらーめんBOO会が結成されており、7店舗がそれぞれのスタイルでかつらーめんを提供している。
小坂町から青森県に入るルート沿い、五戸町、十和田市、野辺地町にもかつらーめんが点在しているのも興味深い事実である。
(河田剛)