
静岡ラーメンって?「溶き味噌ラーメン」がその答えになる
~日本ご当地ラーメン総選挙2025店主レポートvol.1~
今回は、2025年11月26日~30日に新宿の大久保公園で繰り広げられた「日本ご当地ラーメン総選挙」のアツい戦いから、ある一杯を紹介したい。
静岡市清水区にある人気店・『麺屋ARIGA』が手掛ける、静岡県のご当地ラーメン「溶き味噌ラーメン」だ。

「日本ご当地ラーメン総選挙2025」会場の大久保公園
【60年以上続いてきた静岡の「溶き味噌ラーメン」】
味噌ラーメンは、日本中にある。
しかし、味噌を“自分で溶かして食べる”ラーメンは、唯一無二ではないだろうか。
それが、静岡市清水区で長く親しまれてきた「溶き味噌ラーメン」だ。
その名の通り、食べる側が味噌をスープに溶かしながら、完成させる一杯。実際、初めての客からは「どうやって食べるんですか?」と聞かれることも多いそうだ。
着丼した瞬間のスープは、味噌ラーメンにも関わらず、白く透き通っている。
そこに、丼に盛られたもやしのど真ん中に鎮座する赤味噌ベースの味噌玉を少しずつ溶かして、自分好みの味に仕立てていく。
香ばしいもやしの香りと、赤味噌のコクと深みが相まって、スープを啜る手が止まらない。
味変という言葉が出てきて久しいが、この溶き味噌ラーメンは味変の究極系とも言えるかもしれない。
まるで「このラーメンを完成させるのはあなた」と語りかけてくるような、そんなラーメン。
「日本ご当地ラーメン総選挙」には初出場でWeb予選3位。「溶き味噌ラーメン」が、ローカルだけのものではないと示した結果だ。
店主は当初、仲間とともに挑戦する道も考えたという。しかし、店の事情や休みの問題もあり、最終的には一人で出場する決断をした。
「全国でも、静岡のラーメンってもっといいものがあるんだ、って伝えたくて」
その思いが、この一杯に詰まっていると思うと、背筋が伸びる感じがした。

静岡県のご当地ラーメン「溶き味噌ラーメン」
【「静岡ラーメンって何?」への答えがここにある】
静岡のグルメといえば、おでん、わさび、しらす、そして『さわやか』。このあたりは、多くの人がすぐに思い浮かべるだろう。
一方で、「静岡のラーメンは?」と聞かれると、言葉に詰まる人は少なくない。清水の「溶き味噌ラーメン」は、その問いに対する答えになろうとしている。
60年以上にわたり、清水の人々に食べ続けられてきたその歴史は地域に深く根づき、全盛期に比べて店舗数は減ったものの、現在も10軒ほどの店で、この味が受け継がれている。
「静岡でラーメンといえば、溶き味噌ラーメン」。
地元の人にとっては、ごく自然な認識なのだそうだ。
【元祖は1960年創業『一元本店」』】
「溶き味噌ラーメン」を生み出した元祖は、静岡県清水区にある『一元本店』。
1960年に創業し、60年以上地元の人々を中心に愛され続けてきた中華料理店だ。チャーハンや、餃子などが並ぶメニューに、何の変哲もない顔で「もやし味噌ラーメン」と書かれている。その一杯こそが、清水で受け継がれてきた「溶き味噌ラーメン」だ。地元では「味噌ラーメン=溶き味噌ラーメン」というくらい、当たり前の存在であることがうかがえる。
今回、総選挙に出るにあたり、店主は事前に『一元本店』を訪れ、「この溶き味噌ラーメンで戦ってきます!」と挨拶をし、了承を得たという。

ブースにのぼりも飾りご当地ラーメンを盛り上げる
【仕入れるのではなく自分で育て、作った味噌】
「溶き味噌ラーメン」の主役といっていい存在である味噌。
『麺屋ARIGA』の味噌のこだわりは、なんと畑から始まる。
清水区庵原町にある畑で、種をまき、大豆を育て収穫し、味噌を仕込む。
白に近ければ甘みが出るが、単調になる。
赤に寄りすぎると、癖が強くなる。
温度管理は15〜25度。発酵の進み具合を日々確認して、白から赤へ移る、その絶妙なタイミングを見計らって発酵を止める。
そうして1年以上、手塩にかけて作り上げた味噌に、地元の「伊豆みそ」という甘みのある白味噌など3種の味噌を加えたブレンド味噌が、『麺屋ARIGA』の「溶き味噌ラーメン」のやさしいコクと深みを生んでいる。
なお、現在清水で提供されている「溶き味噌ラーメン」は、赤味噌を軸としながらも、店ごとに合わせ味噌を用いたり、白味噌を選べるなど、それぞれの工夫が加えられている。その多様性もまた、「溶き味噌ラーメン」が地域に根づいた証と言えるだろう。

総選挙初日の開会式の様子
【「静岡にラーメン課を作りたい」--その情熱が生んだ、確かなうねり】
総選挙の前に、店主は静岡市長を訪問している。
なんと「優勝したら市役所にラーメン課をつくりたい」という話をしたのだそうだ。
行政を巻き込んだ静岡のラーメン文化を打ち出す“静岡ラーメン構想”が、ここから一気に加速しそうな勢いを感じた。
また出場に際しては、静岡県のみならず、山梨県の仲間たちの支援もあった。
前回の日本ご当地ラーメン総選挙で、初参加で第3位となった「甲州地どりラーメン」のチームが、静岡の出場を温かく応援してくれたという。
本来ならライバルになっても不思議ではない。静岡と同じく、ラーメン文化の印象が強い地域とは言いがたい山梨。同じ中部地区から総選挙に挑んだ仲間として、同じ立場にあったからこそ、静岡の挑戦に共鳴したのだろう。
「静岡ラーメンをもっと多くの人に知ってもらいたい。伝えたい。そういう気持ちで突っ走ってきました」
店主の熱意は、元祖である『一元本店』のお墨付きを得て、静岡県の行政を動かし、山梨のラーメン仲間からも応援を集めるほどの力となって、いま確かなうねりを生み始めている。
目指しているのは、静岡ラーメンという名前が、全国で当たり前になる未来。
「溶き味噌ラーメン」は、そんな未来がもうそこまで来ていることを感じさせる、熱い一杯だった。

インタビューを受ける有賀店主と筆者
(ラーメンプロフェッサー 齋藤 正明)
