100年後に残したい名店vol.2

いろは食堂 本店

「いろは食堂 本店」

名将・伊達政宗が戦国時代末期(1591年)に拠点を構え、その後、幕末(19世紀)に至るまで、伊達氏一族(岩出山伊達氏)が城主として治め続けた岩出山。そんな歴史情趣を色濃く残した路地の一角にひっそりと佇むのが、今回ご紹介する「いろは食堂本店」だ。

店舗は、看板はおろか暖簾さえない古民家風の建物。「いろは」の味を求める客が作る長蛇の列のみが同店の在処を示すランドマークであり、特に初訪問の方は、注意深く探索することをオススメする。

また、「いろは食堂」には、客が守らなければならない同店ならではのルールが存在する。同店には、接客を一手に担う女将さんがいらっしゃり、入店・着席のタイミングや、オーダーのタイミングについて、細やかな指示を出している。「いろは」を訪問するに当たっては、女将の所作をよく観察し、指示に的確に従うことを、アドバイスしておきたい。

いろは食堂 本店

ひとたび店内に入れば、眼の前に広がるのは、昭和から、そのまま時が止まったようなノスタルジックな空間。提供している麺メニューも、「らあめん」と「特製いろはらあめん」の2品のみと実に潔い。

スープと麺については、デフォルトと特製との間で、特段の違いはない。トッピングとして、鶏チャーシューが載るのが「らあめん」、豚パーコー肉が載るのが「特製いろはらあめん」。異なる点はその一点のみなので、その時の気分に応じて、食べたい方を選べば良い。

ラーメンの内容も、これまた絶品のひと言。

丼が卓上に置かれた瞬間から、鶏の芳香が宙を舞い鼻腔をくすぐる。

スープは、数ミリの厚みを有するラードの油膜に覆われ、食べ始めから食べ終わりまで、熱々をキープ。ラード油に由来する動物性の香りとうま味が、鶏をじっくりと炊き込んだ滋味深い出汁と、寸分の誤差もなく口内で一体化。そのミクスチャーに抗うことができる食べ手は、皆無に近いだろう。

「老舗のラーメンは、想像以上にオリジナリティがある魅力的な料理」

私がこのような価値観を持つことができたのは、この「いろは食堂本店」に出逢えたことがキッカケだ。

柳枝のようにしなやかに撓む同店のストレート麺を、久しぶりに思い存分啜ってみたい。このコラムを書いている最中から、そんな欲望が間断なく私を襲い続けている。胸を張って、100年後に残したいと言い切れる、名店中の名店だ。

(田中一明)

100年後に残したい名店:店舗情報

店名いろは食堂 本店
住所宮城県大崎市岩出山二ノ構30-1
電話番号0229-72-1131
※店舗情報は2018年2月現在のものです