「RAMEN CIQUE」
~ 須藤 剛さん ~
【限定メニューのアイディアは思いつき】
── オープン当初、雲丹を使った限定をやりましたよね。ああいうの、当時どこにもなかったですよね。
あの頃なんであんなに頑張ったかというと、やっぱり、自分の店をバーンとオープンしてデビューじゃないですか。自分の、世の中に対する。だからアッと言わせたかったって言うか、なんか面白いことをやっているラーメン屋があるなって思われたいと思って。面白いのをやって、注目されたいとは思っていなかったですけど、なんかちょっと凝ったのを考えていたんですよね。
── 割とそういう野心とかあるんですね(笑)
野心と言えるのかなぁ(笑)。ただその時は開業するまでの10年間、いろんなラーメン屋に勤めた自負があったので。
有名なラーメン屋がいっぱいあって、そういう人たちが何を出来るかは分からないけど、僕はいろんなレシピを持ってるし、いろんな味が作れるって自負があって、だからどこまで自分の引き出しがあるか分からないけど、自分もやったことがない、そして、みんなもやっていないようなラーメンをやってみたいというのがあって、やっていたんですけどね。
── それまでに雲丹でラーメンを作ってみたことはないわけですよね?
ないです。だから取り寄せてからどうしたものかみたいな(笑)
── そこからなんですか?!事前に他のジャンルのレシピを調べて、ラーメンに応用できそうだなとかじゃなくて?
僕、全然調べたりしないですよ。まず頭の中で思いついたらちょっと取ってみて、それで思いつきで全部進めていくんですけど。
── 天才じゃないですか!
いやいや天才じゃないですよ。それですぐ出来れば天才でしょうけど、すぐ出来ないですから。試行錯誤してですよ。
冷製和え麺「雲丹豚骨と山葵の2色ソース」
【名物の焼きトマト】
── トマトには特別な拘りがあるんですか?
トマトは指定しているところから取っているんですけど、すごい残念なことに、そこから取り寄せられるのは1月から6月終わりくらいまでなんですよね。熊本の塩トマトを作っている農家さんから、塩トマトって甘みを凝縮させるために大きくさせないんですけど、それを少し大きくしたものを仕入れています。甘いんですよ。すごく美味しいんですよ。
トマトって夏は北の方で作って、冬から春にかけては南の方で作っているんですよね。季節によって作っているところが完全に別れちゃうんですよ。だから下半期のいいトマトをどこか契約して取れないかと探しているんですけど、ちょっと価格に折り合うようなトマトが見つかっていないんですよね。下半期は八百屋さんにいいものを持ってきてってお願いしています。
── トマトをラーメンに使うというのは、当時ほぼなかったと思いますが、載せようと思った切っ掛けはなんだったんですか?
勤め先でトマトを使っているお店があって、それを塩ラーメンに賄いに入れていつも食べていたんです。美味しいなーっと思って。それが好きだったので、メニューにできるんじゃないかとなって。そして、焼いたら食感もとろっとして、味も濃くなるなと思って、それでやってみようかなと。それも思いつきですね。
【お客さんを思っての取材拒否】
── 実は原則取材拒否ですよね?断られるかなと思ったんですけど、受けてくださりありがとうございました。
なんか久しぶりにお会いしたので嬉しくて良いですよって言っちゃいました(笑)
── 取材拒否にしている理由は何ですか?
うちは6席しかないし、あんまりお客さんが殺到しちゃっても対応しきれないから。とにかく忙しすぎたんですよ。この6席という店に対して。
一番ひどい時は2時間待ちぐらいだったんです。お客さんにも申し訳ないし、そんな並ぶようなあれじゃないですよ、6席の店なんて。近所のお客さんが入れないし、時間かかっちゃうし、それでちょっとそういうのは出ないようにしておこうと。
── 食べログでは百名店に選ばれていますよね。
あれは、ありがたいことですよね。口コミを書いてくれている人のお陰で選ばれているわけですもんね。嬉しいですよ、ほんと。うちみたいなよく分からないお店が選ばれるだなんて。
以前、ラーメンデータベースを見ていた時、うちの店が結構上の順位まで行っていたんですよ。自分でそこまで納得したものを出せていないのに、みんなに美味しいと思われていいんだろうかという葛藤もありましたね。
【想像とは違っていた試作段階】
── 10年前の自信があった気持ちと全然違うじゃないですか(笑)
いや、なんて言うんですかね。いっぱい働いていて勉強したから自信があったというのはあったんですけど、実際にやってみてすぐ美味しいものが出来たかというと、そうじゃないんですよ。塩ラーメンも醤油ラーメンも。特に最初のオープン前が一番びっくりしました。あれ?全然美味しくないんだけどって。
例えば、勤めたどこかの店のをベースにしていれば、ある程度の味って確保されると思うんです。でも、ほんとに1からレシピを作ったので、それが想像していた味と全然違かったんですよ。あれ?おかしいな?と。
そこからですね。最初の2、3年はほんとに納得いっていなかったです。今が納得いっているかと言うとそうではないのですが、2、3年のときはお客さんに来てほしくないと思う日も結構ありました。こんなんじゃ営業したところで評判を落とすだけなんじゃみたいな。
なので自信があると言った反面、そういうところもありましたね。実際あまりにも理想の味が出せていない。自分が納得いかないものを出してお金をもらわないといけない。それがすごいプレッシャーでしたね。出来が悪いときは。
── 塩と醤油、全然違いますよね。
全然違いますね。それもやっぱなんて言うんですか、自信があったからやっちゃったんですよね(笑)。清湯も白湯も一人で作っちゃうぞって。それもなかなか無かったと思うんです、一人で全部やるって。
もう、止めてやりたいぐらいですよ。当時の僕に。無理するなって。
── 10年前の自分にアドバイスするとしたら、一番言いたいのはなんですか?
もっとシンプルに作りなさいと。凝りすぎやりすぎ。
いや、やりたかったんですよ。当時はやっぱり。できると思っていたんで。
オープン当初の塩ラーメン
【時間と手間をかけた白湯スープ】
── 白湯も脂とかに頼らずすごく真面目に作っていますよね。いい舌触りのとろみがあって。
でも、全然くどくないと思うんです。清湯は良くあるあっさりしているけどコクがあるというのを目指しているとすれば、白湯は逆でコクがあるけどアッサリしている。似ているけど違うんですよ。食べやすいけど濃厚さは残して。かと言って薄過ぎず。あのバランス、やっぱバランスだと思うんですよ。そういうのって。
白湯の濃度次第で魚のダシの感じ方って全然変わるんです。だから白湯の濃度を調節したら、今度魚のダシの濃度もそれに合わせて変えていかなきゃならない。それをずーっと、トライアンドエラーを繰り返して。
── 魚は上品というか控えめというか。最初から来る感じじゃなくて、お、魚が来た来たみたいな、泳いで出てきたみたいな。
時間差で感じてもらえるのが嬉しいですね。えぐみは味の要素として必要なんですけど、あり過ぎてもしつこいというか、要らないと感じてしまうし、なさ過ぎても綺麗すぎちゃう。だからえぐみは凄い気を遣っています。ただ上品に思ってもらえる程度にですけどね。必要だとは思っていますけど、あまり入れないようにしてます。
── 白湯の寸胴は一本ですか?
一本ですけどガラを抜いたり差し替えたり凄い複雑なことをやっているんですよ。凄い面倒くさいですよ。3回取るんですけど、3回のうちにガラ3回抜き変えて、1回24時間炊くので合計で72時間。
醤油ラーメンの黒味玉トッピング
【もっと地域に愛される店を目指して】
── 10年後の自分はどうなっていると思いますか?
全然想像つかない。10年後のか。10年後か。う~ん。。。
── 10年はあっという間でしたか?
ほんとあっという間ですね。10年やったという感覚は全くないです。とにかくずーっとずーーっと毎日やることに追われ続けて、10年経っちゃったなという感じで。10年後、今の状態から脱却したいですね。
もっと前向きなことを言うのであれば、店員さんを雇って席増やして、もっと地域により愛されるお店になれていたら嬉しいですね。もっとお客さん寄りな店になれていたらいいな。ならなきゃダメだな。
まぁ、あとは多店舗展開とかですか?あんまり考えてないですよ。まだ僕は(笑)
多店舗展開というか、あと1店舗、2店舗、例えば荻窪や阿佐ヶ谷の駅近くに出すんだとすれば、清湯一本とかにしてシンプルにしてというのはありかなと思っていますけど。今この店でやっていることは持っていけないですよ。他の店には。
清湯と白湯はやっぱり無理ですよ。よっぽどラーメンが好きで根性がある人だったらやるかもしれないけど、誰かを雇ってやってもらうような仕事じゃないですね。大変すぎちゃう。
なんでこんな面倒くさいことをやっているのか自分でも不思議ですよ。どんどんどんどん仕事が複雑化して、年々仕込みが大変になっていっちゃったんですよ。凝りに凝って。最初はそこまで凝っていなかったのに。
要約すると10年かけて仕込みしていましたみたいな内容になっちゃって申し訳ないです。
── いや、それだけラーメン作りを真面目にやっていたってことじゃないですか?
真面目にやっていたのかな?でも頑張ってたと思いますよ。身を削ってやっていたと思います。今もうボロボロです(笑)。これからもっと頑張らないとな。
── 体には気をつけていただいて。
10年後も同じことをやってるかもしれないですけどね(笑)
── ファンからすると美味しい味を長く食べたいと思いますので。まずは体なんで。
無理しないとやっていけないけど、、、
── 結局そこに戻っちゃいますね。
今はそうなんですよね。人を雇っていないから。器用じゃないんですよね。不器用なんですよねきっと。
── 不器用な方が美味しい味を作れる気はしますし、難しいですよね。やりたくても歳で出来なくなってくるかもしれないですけど。
だから考え方が変わってきてますよね。このままじゃダメなんだなと。
── という10周年ですね(笑)。おめでとうございます。
ありがとうございます(笑)
店主 須藤剛さん
(インタビュアー 加賀保行)
開店10周年「キセキの物語」:店舗情報
店名 | RAMEN CIQUE |
住所 | 東京都杉並区阿佐ヶ谷南3-10-8 |