読者ラーメンコラムvol.7

にんにくや

「究極の味変」

京王線沿線、京王堀之内駅から10分ばかり歩いたところに「にんにくや」というラーメン店がある。
営業時間は19:30から深夜3:00まで。
開店から行列の絶えない人気店である。
この辺りは近隣に複数の大学が所在する学生街であり、多くの大学生が住んでいる。
かく言う私も数年前までその1人だった。

初めてここのラーメンを食べたのはアルバイト終わりの深夜1時過ぎ、当時一緒に働いていた先輩の紹介だった。
ちょうど小腹も空いていたし行ってみようかなくらいの心持ちで付いて行ってみたのだが。

その時の感想を一言で言うと「衝撃」であった。
醤油ベースのスープに細かく濾された背脂。
喉越しが良くスッと胃袋の中に入っていく。
コシのある細めのストレート麺はモチモチしていてこれまた美味い。
デフォルトのトッピングはのり、青ねぎ、チャーシュー。
中でも丸ごと1本煮込んだ豚肩ロースを注文を受けてから1枚1枚丁寧に切って提供されるチャーシューは絶品。
ジューシーかつ弾力があり、噛むごとに肉の旨みと脂の甘みが口の中に溢れてくる。
こんな美味い醤油ラーメンあるのか。率直にそう思った。

ところがこのラーメン、味の本領発揮は卓上にある生にんにくをクラッシャーで潰してスープに入れた時。
先輩に
「にんにく入れてみ。美味いから」
と言われ、
「え…?醤油ラーメンに…にんにく?」
と心の中で思った。
隣に座っていた先輩も、周りのお客さんも慣れた手付きでにんにくを躊躇いもなくスープにぶち込んでいく。
少し違和感を覚えながらも見よう見まねでスープ上でにんにくをクラッシュし、れんげでスープをかき混ぜる。
(そんな変わるのか?)と半信半疑でスープを口にした瞬間。
「うめぇ…」
思わず声が漏れた。
にんにくの豊かな風味が口いっぱいに広がり、同じスープとは思えないほど印象がドラマティックに変化する。
一言で言うならば究極の味変だ。
その後しっかり替え玉し、にんにくを追いクラッシュして私の「初にんにくや」を終えた。

それからというものアルバイトが終わると決まって小腹を満たしに「にんにくや」に足を運ぶようになった。
多いときは週4とかで。
県外から友人が来たときは決まって連れて行き、皆一様に感激していた。それは生まれてこの方替え玉をしたことがなかった友人も思わず替え玉したほどだ。

店主の方も、だんだんと自分の顔(正確に言うとPOOLSIDEと大きく印字されたダサダサなスウェットを着ていた私)を覚えてイジってくださり、お話しするように。
そんな店主の方の人柄も自分がこのお店に通った要因の一つかもしれない。

自分は日本各地でラーメンを食べ歩きしているが、これを超える衝撃には未だ出会ったことがない。卒業後もこの味が恋しくなり東京に行くたびに足を運んでいる。
「にんにくや」は自分の中で学生時代の思い出の味で、究極の一杯である。

(いしちゃん)