ザッツ☆エンターテイン麺ト!vol.3

らーめん再遊記

らーめん再遊記

『ラーメンと漫画  その1』

~名言を発する名物キャラと、物語から作られる新しい味~

戦後の日本で急速に発達し、今や世界にその名を轟かせる「漫画」。そのテーマは大小さまざまだが、「食」をテーマにした「グルメ漫画」は人気が高く、中でも「ラーメン」は読者に身近な事もあって様々に描かれている。

2021年現在、「ラーメン漫画」を紹介する上で欠かせないのが、雑誌「ビッグコミックスペリオール」で連載されてきた三作ではないだろうか。このシリーズは、「原作:久部緑郎、作画:河合単、協力:石神秀幸」で共通している。「TVチャンピオン」連覇後にラーメンの現場を様々に見てきた石神氏が関係している事もあって、夢や理想だけに留まらない、現実的な話題も取り込んでいる。

ラーメン発見伝

ラーメン発見伝

その第1作である『ラーメン発見伝』は、1999年から2009年にかけて連載された。テレビや雑誌で「ラーメンブーム」と呼ばれてきた時期で、そのストーリーに登場するラーメン店が現実の人気ラーメン店をモデルにしていたり、ご当地ラーメンのストーリーには、実際の人気店が実名で登場する事もあった。

様々なエピソードを織り込みながら、主人公の藤本が理想のラーメンを目指して奮闘するのがメインストーリー。その主人公の前に立ちはだかる存在として、人気ラーメン店主の芹沢達也がほぼ全編にわたって登場している。

「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食っているんだ」「『うまいラーメン』で満足しているのはアマチュアに過ぎない」など、刺激的なセリフで作品を引き締める芹沢。強いだけのライバルに見えるが、彼自身が「理想のラーメン」にこだわり店を潰しかけたという前日譚があり、彼の人物像に奥行きを与えている。

らーめん才遊記

らーめん才遊記

『らーめん才遊記』は、「発見伝」完結直後の2009年から2014年にかけて連載。前作から引き続き出演する芹沢が、ラーメンコンサルタントとして社長業もこなす設定で、破天荒な新入社員である汐見に振り回されつつも、「いいものなら売れるなどというナイーブな考え方は捨てろ」「金の存在しない仕事は、絶対に無責任なものになる」といった、経営者やコンサルタントとしての心構えを説いている。
2020年には、女優の鈴木京香が芹沢を演じたドラマ「行列の女神~らーめん才遊記~」が放映された。

『らーめん再遊記』は、「才遊記」のドラマ化が発表された2020年に始まり、現在も連載中。後進のラーメン店主に話題を奪われて売上が低迷、やる気も失っていた芹沢が、前作ヒロインの汐見の煽りをきっかけに再起。その舞台だったコンサル会社を去って、次の舞台に向かっている。現実のラーメン界で起きた出来事を織り込みながら、これまでの名言、そしてギャグも忘れていない。

この三作を通して登場している芹沢達也が「ラーメンハゲ」という異名で親しまれ、「名言」の数々がネットミームとして定着している。そしてそれ以上に、現実のラーメン店に様々な影響を与えている。

ふく流らーめん

ふく流らーめん

その代表的な存在が、大阪の「ふく流らーめん 轍」の看板メニュー「ふく流らーめん」。こちらは、鶏白湯スープをブレンダーで泡立てた上に、柚子を加えた昆布出汁をエスプーマで仕上げた泡をのせている。こちらの店主は「ラーメン発見伝」の熱心な読者で、「発見伝」で芹沢が用いたアイデアをラーメンに取り入れたいと考えた結果という。この一杯が関西で人気を集め、2021年7月には東京高田馬場に進出した。

その他にも、作品に出てきたアイデアをラーメンに活かしたり、名言を支えに店を営業しているラーメン店主は多い。次回のコラムでは、「発見伝」以前のラーメン漫画とラーメンの世界について、更に掘り下げて紹介します。

【その2に続く】

(山本剛志)