ラーメン史コラムvol.8

関西でのラーメンの広がり

『関西でのラーメンの広がり』

関西の中でラーメンが一番話題を集めてきたのは京都府である。
「京都ラーメン」と評されるが、そのスタイルは一様ではない。大きく分けても、「豚ベースのスープに濃口醤油」「動物系スープの背脂醤油」「鶏と野菜を煮込んだスープ」の3種類がある。

第一のスタイルとして有名なのは、戦前には屋台を引いていたと言われる「新福菜館」である。現在は暖簾分け店やFC店が関西や都内にもある。1953年創業の「本家第一旭」は、京都駅近くで新福菜館と軒を連ね、豚骨をベースにした澄んだ醤油ラーメンで、両店の客は途切れない。
第二のスタイルとしては、1949年創業の「中華そば ますたに」が知られている。「来来亭」「ラーメン魁力屋」が全国チェーンとして展開している。
第三のスタイルでは、1971年に創業した「天天有」や「天下一品」が有名。特に天下一品は全国的なチェーン展開で知名度を高め、「京都ラーメンはこってり」という認知度を高めた存在でもある。

新福菜館

京都ラーメンに次ぐ知名度を持つのは「和歌山ラーメン」。和歌山市の中心部では戦前から屋台で「中華そば」が提供され、1940年創業の「丸高」が人気を広めた。豚骨醤油味のあっさりしたスープが人気を集める一方で、1953年創業の「井出商店」は豚骨を長時間煮込んだスープが人気に。新横浜ラーメン博物館では、前者を「車庫前系」後者を「井出系」と分類した。昭和40年代に屋台から店舗に転換していったが、ゆで卵や早寿司が卓上に置かれ、会計時に自己申告するスタイルは屋台時代からの伝統でもある。

様々な食文化がひしめく大阪府では、「大阪ラーメン」と呼ばれるスタイルは存在しないが、大阪市内では「ライト豚骨」と呼ばれる、薄く濁った豚骨ラーメンが人気を集めてきた。一方で、大阪市と東大阪市にまたがるエリアでは「高井田ラーメン」と呼ばれる独特のスタイルが広がっている。低加水の極太麺に、鶏ガラと昆布を使った醤油味のスープを合わせている。1950年代に創業した「光洋軒」「住吉」を中心に人気を集め、朝早く開店したり24時間営業などで、朝からラーメンを楽しめるのも特徴の一つ。

兵庫県西部の西脇市や加東市などでは「播州ラーメン」と呼ばれるスタイルがある。あっさりしたスープに甘口の醤油ダレを合わせた味は、戦後、播州織の工場に集団就職した若い女性工員の好みに合わせたものと言われている。

奈良県では、白菜・ニラ・豚肉の辛口炒めを乗せた「天理ラーメン」、滋賀県では和風出汁で煮込んだ野菜を乗せた「近江ちゃんぽん」が人気を集めている。

井出商店

関西を「ラーメン不毛の地」と呼ぶような意見も一部にあったが、二府四県それぞれにご当地ラーメンや地ラーメンが存在する他、2005年頃からは、大阪を中心に名店が次々と誕生して、メディアでもラーメンが積極的に取り上げられるようになった。京都ラーメンの流れを汲む店が滋賀県に出店したり、大阪で人気を集めたスタイルの店が奈良県に出店したりなど、県をまたいだ動きもみられる。

(山本剛志)