ザッツ☆エンターテイン麺ト!vol.4

すみれ本店にある「駅 STATION」の写真

すみれ本店にある「駅 STATION」の写真

『ラーメンと映画  その2』

高倉健と渥美清

昭和から平成にかけての大スター、高倉健と渥美清はラーメンにも縁がある二人である。

高倉健は山田洋次監督の映画「幸せの黄色いハンカチ」(1978年)でラーメンを食べる場面が有名である。
映画の冒頭で網走刑務所から出所してきた高倉健は、当時網走駅前で実際に営業していた「駅前ラーメン」という店に入る。
ラーメンの他、丼物などもある食堂である。高倉健はおもむろにビールを頼み、続いて正油ラーメン(北海道の店らしく、壁に貼られた品書きの先頭は味噌ラーメンだが、高倉健が選ぶのは正油である)とカツ丼を注文し、一気に食べる。
高倉健はこの撮影に二日間絶食して臨んだという。ビール、ラーメン、カツ丼の3つによって、社会に戻って来たことを示す名場面である。

降旗康男監督「駅 STATION」(1981年)では高倉健は射撃の名手である警察官を演じている。
その中で中華料理屋の店員を装った高倉健が出前の名目で立て籠り犯のいる部屋に入り、犯人を射殺する場面があった。この時、高倉健が持っていた岡持ちには「すみれ」と書かれていた。当時彼が贔屓にしていた札幌のラーメン店「純連」(創業当初の呼び名は「すみれ」)の名前を使ったものである。
「純連」の創業者、村中明子さんは一度引退するが、その後復帰して札幌の市内で「らーめんの駅」をしばらくの間営業していた。この店名は「駅 STATION」から取ったものである。

高倉健はプライベートでは熱海の「石川屋」を時々訪れていて、今でも店内に写真が飾られている。

でぶそばにある渥美清の色紙

でぶそばにある渥美清の色紙

山田洋次監督、渥美清主演の「男はつらいよ」シリーズは庶民が主役ということもあって、ラーメンが何度か登場している。
第7作「男はつらいよ 奮闘篇」では、寅さんが沼津駅前の柳家小さんが経営するラーメン店でマドンナの花子(榊原るみ)と出会う。
第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」には上野駅の食堂で寅さんがラーメンを啜りながら妹のさくらに別れを告げる。シリーズ屈指の名場面である。この作品に初めて登場するのが、歴代マドンナの中でも特別な存在である旅回りの歌手リリー(浅丘ルリ子、最終第48作を含む4作に出演)である。
そのリリーとは第15作「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」において、函館のラーメン屋台で再会する。
第36作「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」では寅さんが福島県、会津高田駅前の「小林食堂」で支那そばを食べる。
第37作「男はつらいよ 幸福の青い鳥」のマドンナ、志穂美悦子は途中から柴又のラーメン店「上海軒」(柴又駅近くに実在した店)で働くようになる。

渥美清のお気に入りだったのが松竹大船撮影所(現在は鎌倉女子大学のキャンパスとなっている)近くの「中華でぶそば」で撮影中何度か訪れていた。半ラーメン、半チャーハン、シュウマイ3個を食べるのが常で、これは現在「寅さんセット」という名前でメニューに載っている。また、歴代マドンナを必ずこの店に招待したという。2019年12月には1997年以来の新作「男はつらいよ お帰り寅さん」の公開を記念して、でぶそば監修のカップ麺が発売された。

高倉健と渥美清、いずれ劣らぬ名優だが、ラーメンも彼らを支える名脇役だったと言えるのかもしれない。

【その3に続く】

(河田剛)