
都心で出会う、郷愁の一杯──青島食堂 秋葉原店で“新潟ラーメンの歴史”をすする
東京・秋葉原の一角、まるで営業していないかのようなシャッターの閉まった店の前に、30〜40人の行列ができている。この光景を見て「ああ、また来てしまった」と筆者は思った。
実は、ここ青島食堂 秋葉原店には何度も通っている。新潟出身の筆者にとって、この店は単なるラーメン屋ではなく、「故郷の味そのもの」だ。窓の外で降りしきる雪をみながら、湯気をまとった一杯をすすった記憶が、都心でよみがえる場所なのだ。

青島食堂 秋葉原店 外観
店内はカウンター席のみ、わずか10席ほど。入店するとまず食券機で購入し、その後、店内に設けられた待機席に腰を下ろす。そのタイミングで、店主から「食券見せてください」と声がかかる。ここで注文内容を確認しておくことで、着席から着丼までが驚くほどスムーズに進むのだ。行列は長いが、進みは軽快。回転の良さも、この店の大きな魅力のひとつだ。
注文したのは、「青島ラーメン」。香り立つ生姜醤油のスープは、飲むたびに体の芯から温まる。寒冷地・新潟ならではの知恵がこの一杯に詰まっている。色の濃い醤油スープに、豚骨などの動物系の旨み、そしてキレのある生姜が主張しすぎず、しかし確実に輪郭を刻む。

青島食堂 秋葉原店「青島ラーメン」
麺は中太のゆるい縮れ麺。しなやかでいて、もっちりとした弾力がある。
具材は、ほうれん草、メンマ、海苔、チャーシュー、ネギ、なるとと、どこか懐かしさを感じさせる顔ぶれ。中でも、薄切りで醤油の味がしっかり染みたチャーシューは、このラーメンの個性のひとつだ。噛むほどに旨みが広がり、スープとの一体感を高めてくれる。なるとの存在も「昔ながらのラーメン」の風情を添え、郷愁を誘う。
このラーメンは、「新潟5大ラーメン」のひとつとしても知られている。あっさり醤油ラーメン、濃厚味噌ラーメン、燕三条の背脂ラーメン、三条カレーラーメンなどバリエーションに富む新潟ラーメン文化の中でも、生姜醤油のシンプルさと洗練された味わいから、新潟ラーメンの底力を感じる。
東京のど真ん中で、これほど“あの頃の味”をそのまま再現してくれる店があることに、感謝すら覚える。何より、店舗全体に流れるストイックな空気。淡々と、だが極めて効率的に回るオペレーション。毎回、ブレることのない味。派手さや奇抜さはないが、何度訪れても飽きることはなく、むしろ「通いたくなる」店だ。
都会の喧騒のなかで、“新潟ラーメンの歴史”をすする──それが、青島食堂 秋葉原店での体験だ。
(ラーメンプロフェッサー 齋藤 正明)