ラーメン史コラムvol.12

喜夢良

喜夢良

『九州のご当地ラーメンの伝播~後編~』

【大分県】

大分県で最初のラーメン店は、日田市で1954(昭和29)年に開店した「来々軒」とされる。この店は、久留米市で「三九」を立ち上げ、北九州市に移った「来々軒」の支店として開店した。こちらも、豚骨ラーメン発祥の店からの流れを汲んでいる。
大分県北部の中津市で1958(昭和33)年に開店した「中津宝来軒」は、寿司職人だった方が、たまたま土地があったという理由で中津市で開業。ラーメン作りの経験はなかったが、ラーメン店をやっていた甥から手ほどきを受けたという。その甥がやっていた店が、博多の豚骨ラーメンの創成期を担ってきた「博龍軒」であった。

最近話題を集めている、佐伯市の「佐伯ラーメン」は、豚骨をベースにしつつも、大量のニンニク油や中太麺など、九州の他の都市には見られない特徴を持っている。
造船業や漁業に従事する人が多かった佐伯市民が濃い味を求めていった他、山に囲まれた港町という地形の影響もあって、他の街との行き来が少なかったことによる「ガラパゴス的変化」の影響を指摘する声もある。

 

香蘭

香蘭

【宮崎県】

宮崎県で最初のラーメン店とされる「こむらさき」は、台湾でラーメンの作り方を学んだ店主が、宮崎に戻った1948(昭和23)年に開店させた店とされる。

その一方で、1953(昭和28)年には「喜夢良」が開店。この店名は創業者の木村氏にちなむものだが、この木村氏は、玉名市の「三九」で修業し、熊本市で初のラーメン店とされる「松葉軒」を立ち上げた人物。
そこを譲り渡した後、宮崎市に渡ってこの店を開店させたことになり、宮崎市にも久留米からの豚骨ラーメンが伝播していた事になる。
県北の延岡市で1955(昭和30)年創業の老舗「再来軒」は、久留米からの職人を招いていて、豚頭やげんこつを使った濃厚な豚骨スープで人気を博している。

再来軒

再来軒

【鹿児島県】

九州各県のラーメン創成期で、久留米ラーメンとの繋がりが見られる中、鹿児島県は違いがみられる。
1947(昭和22)年に鹿児島県で最初のラーメン店とされる「のぼる屋」の創業者は、横浜の病院にいた頃に中国人から作り方を学んだとされ、1949(昭和24)年に開業した「のり一」、1950(昭和25)年に開業した「こむらさき」は、台湾出身者の影響を受けている。
これは、太平洋戦争で敗戦した後、台湾から日本に引き揚げてきた人達が、船で一番近い本土である鹿児島にたどり着いた事にも関連があると思われる。

こむらさき

こむらさき

九州では土地と人の繋がりが、豚骨スープの広がりを重層的にしていった。
中でも、「久留米→玉名→佐賀」と出店された「三九」と、その「三九@玉名」で学び、熊本で「松葉軒」、宮崎で「喜夢良」を立ち上げた木村氏など、複数の場所で新たな味を立ち上げた人達の活躍が、九州全域に豚骨スープを広めた大きなきっかけになっていると感じられる。

(山本剛志)

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