ラーメン史コラムvol.15

『名古屋めしに負けず、名古屋めんにも歴史あり』

愛知県、中でも名古屋市には個性的な食べ物が多く、最近は「名古屋めし」という名前でまとめられている。「ひつまぶし」「味噌カツ」「手羽先」などもあれば、麺類である「名古屋めん」も多い。あんかけスパゲティや味噌煮込みうどんなどもあるが、ここでは「ラーメン」の含まれる「名古屋めん」の歴史をまとめてみたい。

【名古屋人の友「スガキヤ」】

「名古屋めし」に含まれるかは議論があるかもしれないが、名古屋市民に一番馴染まれているラーメンチェーン店である事に間違いない。1946(昭和21)年に創業した「甘党の店」をルーツに、2年後にメニューにラーメンを加えて「寿がきや」に改名。1969(昭和44)年からチェーン展開を始め、中京地方に多数の店舗を出店。スーパーのフードコートなどでお馴染みで、甘味メニューも揃っている為、世代や性別を問わずに人気がある。

スガキヤのラーメンは「和風とんこつ味」を名乗り、豚骨スープと魚介出汁を合わせている。いわば「ダブルスープ」の先駆けともいえる存在である。また、冷やし中華にマヨネーズをつけて提供したのはスガキヤが最初と言われていて、中部地方から広まるスタイルの原型にあるものかもしれない。

スガキヤ(写真提供:ハッシュロイヤル)

スガキヤ(写真提供:ハッシュロイヤル)

【じんわり系の独特なスープ「好来系」】

1959(昭和34)年に創業した「好来(現:好来道場)」が生み出した一杯は、豚骨・鶏ガラなどの動物系素材に加え、玉ねぎ・ニンジン・ニンニクなどの根菜類を多く使っていて、太めのメンマとチャーシューがのるのも特徴になっている。暖簾分けなどで名古屋近郊に広まった味になっている。

好来道場

好来道場

【ひそかに話題の「玉子とじラーメン」】

スープの上に溶き玉子を加えて仕上げる「玉子とじラーメン」を提供する店がしばしばみられるのも名古屋の特徴の一つ。発祥の店と言われる中華料理店「萬珍軒」は、1966(昭和41)年にラーメン屋台を始め、翌々年に店舗を構えて人気を集めている。萬珍軒ではメニューの一つではなく、担々麺やちゃーしゅ麺などのメニューも玉子とじスープだが、苦手な人は玉子抜きでの注文も可能。

この味に触発され、玉子とじラーメンを提供する名古屋の店もみられる。

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萬珍軒

【ニンニクごろごろ「ベトコンラーメン」】

名古屋市からは少し離れるが、愛知県西部の一宮市で誕生したのが「ベトコンラーメン」。1969(昭和44)年に創業した「新京本店」で生まれた味は、中国から雇い入れた料理人が賄いで作った「ニンニク入りモヤシ炒め」がヒントになった。粒のままのニンニクをたっぷり入れた野菜炒めを、豚骨・鶏ガラを使ったスープにのせたラーメンを提供した。ベトナム戦争で知られた「ベトコン」の名をつけたが、現在では「食べたらベストコンディションになるラーメン」に由来が変わっている。出身者が岡山や茨城にいる他、新京も東京への出店経験がある。

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ベトコンラーメン

【激辛で人気の「台湾ラーメン」】

1962(昭和37)年に今池で開店した台湾料理店「味仙」。台湾にルーツを持つ店主が、台湾の「担仔麺」を店で再現しようとした際、ニンニクや唐辛子を大量に使った激辛ラーメンが完成し、まかないとして食べられていた。1970(昭和45)年頃からメニューに加えた際、台湾料理店で提供されるから「台湾ラーメン」と名付けられた。台湾でこのメニューは「名古屋ラーメン」と称されているという。創業者の兄弟が市内に出店し、東京に進出している店もある。

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味仙

【全国で人気の味に「台湾まぜそば」】

台湾ラーメンは、もう一つの名古屋名物を生み出した。その舞台は、2008(平成20)年創業の「麺屋はなび」。開店時は塩ラーメンを看板メニューにしていた。「台湾ラーメン」に用いるミンチ肉を作ったがスープに合わず、捨てようとしたところに「もったいない」とアルバイト店員から提案を受けて、茹でた麺に直接肉を混ぜてみたのが発想のきっかけ。ニラ・ネギ・ニンニクなどを加え、かき混ぜて食べる「台湾まぜそば」が完成した。

スープがない事で多くの店がメニューに入れる事ができ、まぜそばブームにものり、現在では台湾ラーメン以上に広まっているメニューになっている。

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麺屋はなび

様々な味を楽しめる名古屋は、ラーメンにも個性的な味がひしめいているが、決して奇をてらう事なく、地元の人に愛される味が受け継がれている。

(山本剛志)