開店10周年「キセキの物語」vol.2(前半)

RAMEN CIQUE

「RAMEN CIQUE」

~ 須藤 剛さん ~

開店10周年「キセキの物語」コラムの第二回は、取材拒否店のRAMEN CIQUE店主、須藤剛さんにお話を伺うことができました。

 

【自信もあり、独立したい一心でCIQUE開店】

── 10周年おめでとうございます。オープンからのこの10年はどうでしたか?

まだ何の結果も出てないので、どうもこうもないですね。

── このコラムのタイトルは、10年の「軌跡」と、ラーメン業界は長く続けるのが大変なので「奇跡」とかけて「キセキ」とカタカナで書いているんですけど、10年続けられているということ自体がもう成果だと思うんですよね。

そうですね。潰れずにやってこれたというのは嬉しいですね。本当にうちの場合はしょっちゅう来てくれる常連さんに支えてもらっている店なので。

お客さんからしたら6席しかない使い勝手の悪い店じゃないですか。でも、近所のお客さんとか、近所じゃない方も含めて結構通ってくれている常連さんが多いので、本当に助けてもらっているなと思います。

── 常連さんが多いとのことですが、どの駅からも少し離れているこの場所に出店したというのは、どのような切っ掛けだったんですか?

10年前のオープン当時は28歳になったばかりのときでした。27歳の途中から開店準備を始め、誕生日で28歳になって少ししてすぐにオープンで、若かったんですよね。当時の僕は。

だから考えが甘かったというか、あまり深く考えていなかったんですよ。とにかくもう独立したい、自分でやりたいというのが先走っていたんで。

新規開業で歳も若かったので、審査でなかなか良い場所を借りられないというのもあったのと、あと、ちょっと自信もあったんですよ。変な場所でやっても、1人で食って行く分くらいは、まぁなんとかやっていけるだろうと。今となって考えれば完全に若さなんですけど。

── でも、自信と言ってもオープン当初からみなぎるものは変わらない感じがしますよね。

いやぁ~、もうだいぶ衰えましたよね。わははははははは。なんていうんですかね、そういう自信というか体力は衰えましたけど、頭の中にある美味しいもののイメージというのは変わらずあるので、それをずーっとトライアンドエラーを繰り返しながら、追い求めた10年という感じですかね。

 

【一番美味しいと思ってもらいたい食べ終わった後の余韻】

── 自分のオープン当初のイメージをブラッシュアップにブラッシュアップを重ねてみたいなことですかね。

そうですね。ラーメンって毎日味が変わるじゃないですか。絶対に同じ味にならないんですよ、素材から作っていると。それで、たまに意図せず美味しく出来るときがあるんですよ。これ、かなり美味いなと。

そういうのが出来るたびに何が違ったんだろうとその原因を考えて、その味を記憶して。だからなんて言うんですかね。理想の味というものも徐々に変わっているんでしょうけど、それをずっと追い求めているという感じですかね。

スープもそうですけど、タレは分量がちょっとずつ毎回毎回変わるんですよ。こっちの方がいいんじゃないかと。それを繰り返して、徐々に平均点が上がっているというか、そういう感じですよね。

── タレは継ぎ足しではなくて毎回新しく作っているんですか?

タレは毎回作ります。

── ラーメンが綺麗な味だからあまり熟成させたくないってことですか?

そうなんですよ。だからあえてそんなに大きいロットで作っていなくて。昔は増やす一方だったんですけど、最近はもう、これ余分なんじゃないかとか、あえてガツンと減らしてみたりとか。

── 先日食べた塩ラーメン、印象的に旨味はあるけどなんだろ重くないというか。昔は結構どっとくる旨味のイメージだったんですけど。

そうなんですよね。前はやっぱり足し算的な考えというか、もっと美味しくしたいからもっと材料を増やそうとか、もっといい材料を入れてみようとか、開業2、3年ぐらいの間はそういう風に考えていたんですけど、やっぱそれだけじゃ本当に美味しいところに行きつけないなと思ったんです。気付いたんですよ。

やっぱり、全体のバランスをより良くするんだったら、味のバランスを考えて引く必要があるものもあると。素材をいっぱい増やせば味は複雑になって深みは出るんですけど、えぐみとかも出やすくなってくるんですよ。

だからそういうのを、よりこう洗練させて綺麗なまとまった味にしたいなっていうのが頭の中にあって、それをこう突き詰めてずっとやってきたというか。特に塩ダレの話ですけど。

ラーメンの味を作るときに毎回必ず考えるのが、一杯の味、一杯のラーメンを食べていつが一番美味しいか。食べ終わった後の口の中の余韻が一番美味しいって思ってもらえるように、常に意識して考えていますね。

塩ラーメンに焼きトマトと白味玉トッピング

 

【抜け出せていない仕込み地獄】

── 前からこんな営業時間長かったでしたっけ?

だんだん伸びていったんですよね。一番最初の頃が一番短くて、一日4時間半しか営業してなかったんですよ。昼2時間半、夜2時間。

そのときはおかげさまで直ぐにすごい忙しくなって、常時行列ができていたので、それでよかったんですけど、あるときから段々と行列の勢いが弱くなってきて、売り上げがちょっとずつ落ちていったんで、これだったら営業時間を伸ばして仕事を分散化した方が楽だなと思って。そういう考えで徐々に伸ばしていって今に至るんですけど、今となっては逆にちょっと短くしたいなと。首を締めちゃったなと。

── 分散化というのはお客さんが来るタイミングがということですか?

そうですそうです。常に混んでいると作る方も大変だし、お客さんも待つことになるじゃないですか。だったら営業時間を伸ばして仕事量の密度を薄めて仕込みをしながら営業すればいいかなと思ったんですけど。常に行列じゃなくなればお客さんを待たせることも少なくなるので。

── どちらにしても、ここでずっと仕込みをしているんですもんね。

ずっと仕込みをしています。だから10年間は何をしてたかって言ったら仕込み、寝る間を惜しんで仕込みしていました。

── ラーメン屋さんってすごいですよね。腕も重要な要素だとは思うんですけど、そのモチベーションというか、体力というか。

いやぁ~若いうちに卒業しないとダメですよ。仕込み地獄からは。僕は卒業できなかったんですけど。

── 今はずっと1人ですか?

今はそうですね。

── 前は2人の頃もありましたよね?

えぇ。バイトの子を雇ってて、その頃はずっと行列ができていたんで。今は、忙しい時は土日のお昼時とかに限定されるので、1人でできちゃうんですよね。

最近僕もこのままじゃダメだなって、体力の衰えから思うようになったので、人雇って席増やした方がいいんだろうなと、ようやく10年経って考えるようになりました。たぶん他の店主さんよりも気付くのが遅いです。僕は(笑)

 

【ミラーボールのあるラーメン屋さん】

── 屋号はどのような思いを込めてつけたんですか?

自然のテーマを店名にしたいと思って、空とか海とかそういうのを考えていたんですけど、いろいろ考えたら、地球だったら全部ひっくるめて入っているからと地球にしました。

── ラーメンが綺麗な味というか、自然な味を目指すのと同じ方向性を考えてですか?

自然の中に居たいんですよね。自然の中にいる時が幸せを感じるんですよね。住んでたところが海沿い山沿いだったので。

生まれたところが焼津なんですけど、漁港の目の前だったんですよ。だから家からいつも海が見れて。小学校の時に静岡市に引っ越したんですけど、その時は山のふもとに住んでて、毎日山に遊びに行っていたんですよ。山登りして、洞窟に入ったりとか。

── 結構わんぱくな子供時代だったんですね。

自然遊びが好きでしたね。海で釣りしたりだとか、山行って冒険したりだとか。自然で遊びたいんですよ、今でも。だから店名にそういう要素を入れたいなと思って。

── この内装は?

まぁ、自分の好きな店を作りたかったんですよ。当時の若かった僕は。

── ミラーボールがありますけど・・・

僕、音楽が好きなんで。70年代の。

── たまに回すんですか?

お正月の日だけは回します。わははは。今年は回すのを忘れちゃったんですけど。

── ラーメン屋らしからぬ雰囲気なので最初は何屋かと思いましたよ。

みなさんそういう風に言いますよね。美容院かと思ったとか。近所の人に今だに言われますもん。ラーメン屋だと気付かなかったって。

── 外観的にはラーメン屋だとは思わないですよね。

開業直後は、麺屋さんにもラーメンの幟くらい出した方がいいんじゃないの?って言われましたが、分かりますけど、それを出したらもう僕は終わったと思ってくださいって(笑)

もし今、またお店作るんだったらこういうお店は作らないですけどね。こんな洋風な感じ、お洒落な感じじゃなくて、質素なシンプルなお店作りたいですね。

 

【バイトから始まった職人としてのラーメン人生】

── 開業当初、自信があったということですけど、ラーメンの修行経験は?

一番最初にラーメンの仕事を始める切っ掛けになったのはアルバイトです。ラーメンが好きで近所の店に通っていたんですけど、お店の人と仲良くなって話しているうちに、今バイト探しているんですって言ったら「うちでやってみない?」って言われて、そこでバイトを始めたのが切っ掛けです。

── 飲食経験はいきなりラーメンだったんですか?

そうですね。バイトを始めたのは18歳のときですね。

── それから開業までずっとラーメン屋で修行してたんですか?

違う仕事もちょっとやったりしているんですけど、ま、ずっとラーメン屋ですね。20店舗以上勤めましたね。中華料理も勤め先で一通り覚えて。

── 限定も結構やっているじゃないか。そのアイデアはどこから生まれくるのかなと思っていたんですよ。他の飲食の経験があるのかと思っていました。

それこそ中華料理ぐらいですね。洋食のシェフやってたんですか?とか、ラーメンのスープもブイヨンみたいですねとか、なんかちょっと洋食っぽいですねとか言われるんですけど、それってたぶんこの店の雰囲気で食べるからそういう先入観があって、そういう味に思わされているんだと思いますね。この格好とかで(笑)

(後半につづく)